本日分析していくのは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに代表される通信業界です。
最近では、菅新総理が携帯電話料金の引き下げについて言及したことから、より注目されるようになりました。さらには、楽天の新規参入、5Gなど、大きな転換期を迎えようとしています。
そんな通信業界についてよく知るために、ぜひ最後までご覧ください。
【業界分析】通信業界の特徴
(1)通信業界とは
通信業界は、固定通信と移動通信の2つに大きく分けられます。
まず固定通信とは、自宅や職場でインターネットを使用するためのサービスで、現在では光回線が主流です。
一方で移動通信とは、携帯電話やスマートフォンなど持ち運べる通信機器を使ってインターネットができるサービスです。また、この移動通信を提供する事業者は、MNO(移動体通信事業者)とも呼ばれ、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなどがそれに当たります。
(2)携帯シェア
携帯シェアは、1位NTTドコモ、2位KDDI、3位ソフトバンクの順番で、長年この順位は変わっていません。
しかし、10年前のグラフと比べてみると、2、3番手のKDDI、ソフトバンクが徐々にシェアを拡大していることが分かります。
また、今後は格安SIMや、楽天の参入によって順位に変動が起こる可能性も考えれます。
(3)利益率が高い
通信業界の特徴として、利益率が高いという点が挙げられます。
これは、通信事業が参入障壁の高い産業であるためです。
一般的に通信事業を始める場合、全国各地に基地局を整備したり、新規顧客を獲得するための広告を打つ必要があったりと、莫大なコストと時間がかかります。
実際、日本の通信キャリアが3社寡占状態になっていることからも、参入の難しさが伺えます。
「参入が難しい=競合が少ない」業界なので、通信業界は利益率が高くなる傾向があります。
(4)非通信事業への取り組み
国内人口の減少や格安SIMの台頭によって、国内の通信事業は頭打ち状態となっています。
そこで、各社が推進しているのが、非通信事業への取り組みです。
割合としては まだまだ少ないですが、魅力的なサービスも出てきており、今後の成長に期待できます。
【各社の非通信事業例】
・NTTドコモ→dTV、dポイント、DAZN(ダゾーン)
・KDDI→auPAY、auでんき、au損保
・ソフトバンク→PayPay、ヤフー
(5)5Gへの取り組み
5Gを使用するために重要な周波数帯というものがあるのですが、日本政府によって、その周波数帯が通信各社に割り当てられました。
総務省が発表した下の図を見てください。
出典:総務省 |割当結果まとめ
NTTドコモとKDDIはそれぞれ3枠、ソフトバンクと楽天はそれぞれ2枠の周波数帯が割り当てられています。
周波数帯を多く取れている方が、より広範囲をカバーできるので、この時点でNTTドコモとKDDIが一歩リードしています。
また、各社の5Gへの投資額や目標カバー率を見ても、NTTドコモ、KDDIの2社が先行していることが分ります。
出典:総務省 | 5G特定基地局の開設計画に係る認定申請の概要
通信業界の最近の動向
次は、ここ数年間で起こった通信業界での出来事やニュースを見ていきましょう。
(1)携帯電話料金の引き下げ圧力
2018年8月、当時官房長官であった菅氏が「携帯電話料金は4割程度引さげる余地はある」と発言したことをキッカケに、各社に値下げ圧力がかかりました。
日本の携帯電話料金は世界に比べて高く、国内通信各社の利益率が平均に比べて高いことから、こうした発言をしたようです。
実際に、その発言後には各社が次々と新料金プランを発表しましたが、実質的な4割減にはなっておらず、内閣総理大臣に任命された2020年9月以降も菅氏は携帯電話料金の値下げついて言及しています。
もし大幅な値下げが実行されれば通信各社にとって大きな打撃になることは間違いないでしょう。
これまで高い水準を保ってきた各社の利益率は落ち込む可能性があります。
(2)電気通信事業法の改正
通信各社による利用者の過度な囲い込みを防ぐため、2019年10月に「電気通信事業法の改正」が実行されました。
【電気通信事業法(従来→改正後)】
2年以内に他社へ乗り換えると違約金9,500円→上限1000円
契約の自動更新→更新時は利用者に確認
端末購入を条件とした通信料金の割引→禁止
これによって、私たち利用者が自由に携帯キャリアを選択できるようになった一方、通信各社は囲い込み戦略の転換を余儀なくされました。
(3)楽天の参入
2020年4月、楽天モバイル(楽天)は「Rakuten UN-LIMIT」プランを開始し、第4のキャリアとして通信業界に新規参入しました。
月額2,980円で利用でき、さらに先着の300万人には1年間無料となるキャンペーンを打ち出すなど、価格面での差別化を図っています。
しかし、上述したように通信事業を始めるには莫大なコストがかかるため、この破格のプランは長くは続かないという意見も多いです。
また、同年6月には、主力のスマホ端末「Rakuten Mini」の対応周波数を無断で変更するという違反行為が発覚。
参入からわずか数ヶ月でトラブルが続いており、楽天の携帯事業は苦戦を強いられています。
(4)MVNOの台頭
MVNOとは、「Mobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事業者)の略称で、格安SIMを提供している事業者のことです。
MVNOは、NTTドコモやKDDIなどの大手携帯キャリア(MNO)から回線を借りて通信サービスを提供しているため、基地局の建設費用やメンテナンス費用などがかからず、格安の料金プランが実現できているのです。
また、最近では広告効果もあって、かなり知名度が上がり市場規模も拡大しています。
【MVNOの市場シェア】
しかし、依然としてMNO(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)の人気は高く、3社寡占状態は変わっていません。
通信各社の事業内容
ここからは、通信各社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)の事業内容について詳しく見ていきましょう。
NTTドコモ
NTTドコモは、携帯シェアで国内首位の大手通信会社です。国内契約者数の頭打ちを受け、携帯以外の事業展開を急いでいます。
事業内容は主に、「通信事業」「スマートライフ事業」「その他の事業」の3つに分類されます。
通信事業
NTTドコモの売上の約80%を占めている中核事業です。
モバイル通信サービスや光通信サービスなどがこの事業にあたります。
スマートライフ事業
スマートライフ事業では、コンテンツ・ライフスタイルサービスや金融・決済サービスなど、通信以外の事業を展開しています。
売上比率は1割程度ですが、今後拡大させていく事業として注目されています。
その他の事業
その他の事業には、あんしん系サポート(ケータイ補償サービス・あんしん遠隔サポートなど)や法人ソリューションなどが挙げられます。
特に法人向けのソリューションに関しては、5Gの発展によって、さらなる需要の拡大やソリューションの幅の広がりに期待が高まっています。
KDDI
KDDIは、国内の携帯シェアで第2位の通信会社です。KDDIの事業は主に、個人向けの「パーソナルセグメント」と法人向けの「ビジネスセグメント」の2つに分類されます。
パーソナルセグメント
KDDIのパーソナルセグメントは「通信事業」と「ライフデザイン事業」の2つの事業から構成されています。
通信事業では、スマホ・携帯電話の移動通信サービスだけでなく、「auひかり」などの固定通信サービスも提供しています。
また、ライフデザイン事業では、「au PAY」や「auでんき」など非通信サービスを多角的に展開しています。
ビジネスセグメント
パーソナルセグメントとは異なり、ビジネスセグメントでは、法人向けの事業を行っています。
ビジネスセグメントの売上構成比は全体の2割弱ではありますが、年々右肩上がりに伸びてきている領域であり、今後も成長が期待できます。
また、KDDIはトヨタ自動車と京セラを大株主に持っていることもあり、大企業との繋がりが非常に強いです。
ソフトバンク
ソフトバンクは、世界的な戦略投資会社であるソフトバンクグループの通信事業会社です。主な事業内容は「コンシューマ」「法人」「流通・その他」「ヤフー」の4つがあります。
コンシューマ
コンシューマ事業では、携帯端末販売やモバイル通信サービス、ブロードバンドサービスなど、個人消費者向けのサービスを提供しています。
その中でも大きな割合を占めるモバイル通信サービスでは、「ソフトバンク」「ワイモバイル」「LINE モバイル」の3つのブランドで展開する、マルチブランド戦略をとっています。
法人
法人事業では、企業向けの通信サービスや、IoT、AIなどによるソリューションの提供を行っています。
コロナウイルスや働き方改革の影響でリモートワークが増えたこともあり、ソフトバンクの法人事業は、年々売上高が増加している成長事業の1つです。
流通・その他
流通事業では、ソフトバンクグループの卸販売機能を担っており、個人消費者向けには、スマホ・パソコン周辺機器などの販売を行っています。
また、その他の事業では、デジタルコンテンツの企画制作、スマホ証券、決済代行サービスなど、幅広い事業を展開しています。
ヤフー
2019年5月、ソフトバンクはネット大手のヤフーを連結子会社化しました。
ソフトバンクの通信インフラとヤフーのデータマーケティングを組み合わせることで、非通信分野のさらなる強化を図る狙いがあります。
通信・携帯キャリア各社の財務比較
事業内容をざっくりと理解したところで、次は各社の財務指標を比較してみましょう。
NTTドコモ | KDDI | ソフトバンク | |
営業利益率 | 18.37 | 19.58 | 18.75 |
ROE | 11.14 | 14.93 | 37.87 |
ROA | 7.95 | 7.57 | 5.31 |
自己資本比率 | 69.7 | 45.8 | 10.2 |
まず、3社に共通して言えることは、利益率の高さです。通常、10%を超えると高利益とされている中で、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社はその目安を大幅に上回る18〜20%の利益率を出しています。
次に企業ごとの数値を見てみると、NTTドコモとKDDIは、ROE・自己資本比率などが目安値を上回っており、非常に堅実な経営を行っていることが分かります。
一方でソフトバンクは、収益性が高いものの、ガンガン投資をしているため自己資本比率が低いです。
こうした財務指標は、まさに企業風土を表していると言えるでしょう。
NTTドコモ・・・安定した堅実経営
KDDI・・・堅実と挑戦のバランスが取れた経営
ソフトバンク・・・挑戦的な経営
通信・携帯キャリア各社の強み・特徴
次は、各社の強みや特徴を見ていきましょう。
NTTドコモ
5Gへの取り組み
総務省が公表したデータによると、NTTドコモは5Gに向けた設備投資額が3社の中で最も高く、2024年までに全国97%の地域をカバーすることを目標としています。
設備投資額、目標カバー率ともにトップのNTTドコモは、他社に比べて5Gへの取り組みで先行していると言えるでしょう。
携帯シェア1位
NTTドコモの携帯シェアが長年1位である背景には、解約率の低さが挙げられます。3社を比較してみても、NTTドコモの解約率が最も低いです。
また、解約率が低い理由としては、長期ユーザーへの特典の充実している点や、通信品質が高い点などが考えられます。
いずれにせよ、その解約率の低さが、NTTドコモのトップシェアを支えていると言えるでしょう。
KDDI
多角的な事業展開
KDDIではライフデザイン事業として、金融、保険、教育、コマースなど様々なサービスを展開しており、包括的なサービスを提供することができます。
また、こうしたライフデザインサービスは通信サービスとの相性が良く、「通信+ライフデザイン」のセットで提供することで、解約率を低下させる効果も期待できます。
海外事業
KDDIは、3社の中で最も多くの海外拠点数を有していることからも、海外事業に力を入れていると言えるでしょう。
特に、通信インフラが整っていない新興国や発展途上国での事業に注力しており、世界の情報格差の改善に努めています。
また、海外進出を図る日本企業をITの面からサポートする取り組みも積極的に行っています。
ソフトバンク
挑戦的な社風
NTTドコモ、KDDIと比べると、ソフトバンクは非常に挑戦的な社風です。
このこともあり、通信以外の分野に関しては、ソフトバンクが3社の中で最も先行していると言えるでしょう。
例えば、2018年10月にサービスを開始した「PayPay」では、「100億円あげちゃうキャンペーン」などでユーザーを囲い込み、スマホ決済サービスでトップの利用者数を誇っています。
このように、最初に大きく投資をして、大きな利益を掴むという「ハイリスク・ハイリターン」な経営方針は、他の2社との大きな違いであり、ソフトバンクの強みです。
新規事業
多くのグループ企業とのシナジー効果や、国内大企業の93%が取引先であるという強固な顧客基盤を活かし、ソフトバンクでは次々と新規事業を創出しています。
実際に、ロボット、AI、自動運転、ライドシェアなど、通信の枠を超えたあらゆる事業を展開しています。
国内通信市場が飽和している中、通信に頼らない事業展開を積極的に行っている点は強みと言えるでしょう。
通信・携帯キャリア各社の弱み・課題点
次は、各社の弱みや課題点を見ていきましょう。
NTTドコモ
携帯シェアの縮小
NTTドコモの携帯シェアは長年トップの座を維持していますが、数年前と比べると徐々に割合が減っています。
また、国内の携帯市場は飽和しているので、携帯事業に頼るビジネスから脱却する必要があります。
今後、非通信領域(スマートライフ事業・その他の事業)がどれだけ伸びるかが鍵になりそうです。
KDDI
非通信事業の知名度
KDDIでは非通信事業として、金融、エネルギー、教育など幅広くサービスを展開していますが、これといったサービスがなく、知名度もまだまだであるという点は課題として挙げられます。
例えば、ソフトバンクならPayPay、ドコモならdポイントといったように、トップクラスの会員数や知名度を誇るサービスがKDDIにはありません。
2019年4月にサービスを開始した「au PAY」を始めとし、代表的な非通信分野のサービスを生み出せるかが、鍵になるでしょう。
ソフトバンク
自己資本比率の低さ
ソフトバンクの挑戦的な社風は、強みにもなりますが、弱みにもなります。
それが顕著に現れているのが、自己資本比率の低さです。
自己資本比率とは、企業の安定性を測る指標で、この数値が高いほど安定した経営を行っているとされています。
逆に自己資本比率が低いというのは、借入金などの負債が多いことを示し、倒産リスクが高まります。
ソフトバンクのような巨大企業が今すぐ倒産ということはあまり考えられませんが、懸念すべき点ではあるでしょう。
【まとめ:通信業界の業界研究】
【通信業界の特徴】
・固定通信サービスと移動通信サービスに大きく分類される
・携帯シェアはNTTドコモがトップ
・通信会社は参入障壁が高いため利益率が高い
・各社ともに非通信事業を強化している
・5Gの取り組みではNTTドコモが先行している
【通信業界の動向】
・政府による携帯電話料金の値下げ圧力がかかる
・電気通信事業法の改正により顧客の囲い込みが難しくなる
・楽天が低価格プランを売りに携帯市場に参入
・格安SIMが市場規模を拡大中
【通信各社の比較】
・NTTドコモ
→携帯シェア1位
→5Gの取り組みで先行
→携帯シェアが数年前に比べて落ちている
・KDDI
→金融、エネルギー、教育など非通信サービスを多角的に展開
→海外事業で先行
→非通信サービスの知名度がイマイチ
・ソフトバンク
→挑戦的な社風でベンチャー気質
→新規事業の取り組みに強い
→自己資本比率の低さは課題点
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